今回は肋骨骨折と肺ヘルニアについて
ヘルニアと聞くと、腰椎の椎間板をイメージしやすいものですが、人の体にはヘルニアというものは他の箇所でも起こるものです。
紹介する症例では、肺のヘルニアが起きてしまったものですが、きっかけは肋骨骨折後の咳によるものです。
今後、肋骨骨折などの対処などに、こういった症例もあるということを知っているのは大事なことです。
症例報告
・65歳の男性
咳の後に、飛び出る音が聞こえ、急激に左側の腹痛が起きたため、救急車により搬送されました。
外傷の所見はありません。
この男性は活発な喫煙者であり、過去の病歴には、うっ血性心不全、高血圧、冠状動脈疾患、真性糖尿病、複数の硬膜外注射を必要とする腰椎椎間板疾患に続発する慢性疼痛、および膝関節置換術と回転カフ修復を含む複数の整形外科手術が行われています。
しかし、胸壁に外科的処置を行う必要があった病歴はありません。
男性が日頃から服薬している薬には、ヒドロクロロチアジド、リシノプリル、メトプロロール、メトホルミン、アスピリン、クロピドグレル、ジクロフェナクでした。
検査によると、左側腹部の圧痛または変形は陰性でした。
心電図、胸部X線は急性病変に対して陰性でした。
筋肉痙攣による疼痛、という診断で鎮痛剤を処方され家に帰りました。
数日後、彼は症状が解消されない、ということで再受診しました。
今回の検査で、彼は左臀筋より下方、左脇腹に大きな血腫があることがわかりました。
触診で膨満感、圧痛、捻髪音はありませんでした。
CTによる胸部の検査では、肺組織のヘルニアを伴う8番目と9番目の肋骨の間の左側の胸壁欠損を明らかにし、5cm×3cmの血腫がみられたため、骨折は不鮮明なものから明らかにならなかった。
肺組織への血管障害の証拠がなかったので、男性は鎮痛剤による保存的な治療による管理を勧められました。
1か月後、再び抑えられないぐらいの胸痛と息切れを示しました。
胸部X線写真は、8番目の肋間腔の拡大を伴う肺組織のヘルニアを示しました。
CT胸部の検査では、左下葉の無気肺に関連する肺ヘルニアの進行と、左第8および第9肋骨の急性の変位した骨折を明らかにしました。
直近で行われた検査と、既往歴や手術歴によるリスクもあり外科的治療法は行われませんでした。
この男性はオピオイド鎮痛薬の投薬で退院しました。
フォローアップ時の訪問で、彼は高用量の鎮痛剤を服用しているにもかかわらず、左下胸にまだ痛みがあることを訴えました。
肋間神経ブロックも試しましたが、彼の場合は効果がなかったようです。
慢性心不全に続発するのか、「肺ヘルニア骨折」に続発するのかわからない呼吸障害があるようです。
Point
・肺ヘルニアが起きる要因として、肋骨骨折、肺の嵌頓、感染症などが挙げられます。
病的ヘルニアともいわれ、胸壁膿瘍、蓄膿症、骨髄炎、悪性腫瘍なども含まれます。
そして、長期的にステロイドを服用し、慢性閉塞性肺疾患などを持つ人が咳、くしゃみ、楽器の演奏、重いものを持ち上げるなどのことをするだけでも胸腔内圧が急激に増加し、本症が出ることもある。
しかし、X線検査では異常が見つかりづらく、CT撮影でわかることが殆どである。
まとめ
年齢と既往歴には気を付けながらも、今回のような難しい判断をしないといけないこともあります。
恐らく、私でも経過観察を判断してしまいそうですが、病歴などを聴取できていれば事情は変わってくるかもしれません。
問診は大切ってことでしょうね。
Adil S. Wani, Prachi Kalamkar, Sulaiman Alhassan, Michael J. Farrell, Spontaneous intercostal lung herniation complicated by rib fractures: a therapeutic dilemma, Oxford Medical Case Reports, Volume 2015, Issue 12, December 2015, Pages 378–381