今回は医療従事者のセクハラについて
概要
米国雇用機会均等委員会による報告では、医療関連の職場でのセクハラには以下のような出来事があります。
・歓迎されていない性的な勧誘
・性的な好意を要求してくる
このようなことから、仕事のパフォーマンスや雇用状況に影響を与えたり、不適切で敵対的な職場環境を作り出したりしています。
MeToo運動というものにより、このような影響を受けた人の精神的、および肉体的健康に対する深刻な結果が現在広く認識されるようになってきています。
MeToo運動は医療業界に浸透しており、驚くほど高い割合のセクハラが起きている現状を暴露するのに役立っています。
最近の調査によれば、学術医療センターの医師の70%が、何らかの形のセクハラを経験したことを報告しています。
そして、女性医師は男性医師よりも、このような経験をする可能性が有意に高いことがわかっています。
患者による医療従事者へのセクハラの蔓延を調査した研究はほとんどありませんが、予備調査ではそれが重要である可能性があることが示唆されています。
研究調査
前述の調査によれば、女性医師の1/3が患者からのセクハラを経験した、と報告しています。
別の研究では、患者によるセクハラは、医療現場の同僚からのセクハラよりも蔓延している可能性があることが示唆されています。
2018年のMedscapeの調査では、6235人の医療従事者を対象に調査し、医師の27%が患者からセクハラを受けたのに対し、臨床医、医療関係者、または職場の管理者からセクハラを受けたのはわずか7%ということがわかりました。
さらに皮膚科では、セクハラの割合が最も高い専門科である、という疑惑がもたれていましたが、皮膚科の医師の46%は、過去1年以内に患者による何らかの形でのセクハラを経験したと報告されています。
研究による観察結果や個々の経験に基づいて、皮膚科診療における患者によるセクシャルハラスメントは男性医師よりも女性医師に影響を及ぼし、燃え尽き症候群と離職に関連している可能性があると仮定しました。
この仮説を調査するために、ワシントン大学の皮膚科で非公式の匿名電子調査を実施しました。
この調査では、高い回答率(70%)をえることができ、研修医を含む34人が回答していました。
このうち、55.9%が女性、44.1%が男性であることがわかりました。
患者から医療従事者へのセクハラは、男女関係なく行われる出来事であることがわかり、67%がそのような経験をしたと報告されました。
女性医療従事者は、患者によるセクハラを多く経験しており、男性医療従者40%に対して、女性医療従事者の84%が何らかの形のセクハラを経験したことを報告しています。
報告されたセクハラ行動には、
・外見に関するコメント(85%)
・婚姻状況に関する質問(59%)
・性的性質が含まれるジョーク、またはストーリー(35%)
・日付に関する質問(11%)
と報告されていました。
さらにわかったのは、ほとんどの女性医療従事者は、患者によるセクハラを複数回に渡り経験し、42%が4〜10回、37%が11〜50回経験したことを報告しています。
退役軍人省の外来診療所では、患者によるセクハラの頻度が最も高く、外来の学術診療所がそれに続いたことがわかりました。
職場で経験するセクハラは、キャリアに悪影響を及ぼし、仕事の変化や経済的ストレスを引き起こしています。
コホート研究によれば、女性医療従事者の21%が、男性医療従事者と比較して、患者によるセクハラが原因で燃え尽き症候群を経験したと回答していました。
キャリアへの影響を調査したものでは、女性医療従事者の16%は、患者によるセクハラのために転科、転職し、女性医療従事者の37%は、セクハラのために患者担当を変更していました。
男性医療従事者はセクハラによる何らかの行動を起こしている、という報告はありません。
これらの医療行為のいくつかの側面から、すべての医療従事者がセクハラを受ける環境要因として、
・密室での1対1の接触
・医療従事者と患者の関係の相違(立場の違い)
・医療はサービス産業である、という概念
とあり、これらによる影響でセクハラを受けやすくなります。
皮膚科で起きやすい要因として、
・皮膚検査に必要な脱衣
・検査中の物理的接触
といったことがあり、医療従事者が影響を受けやすいのではないかと仮定されています。
さらに、若い女性が進出している現環境では、セクハラのリスクが特に高くなっていく可能性があります。
考察と対策
患者と医療従事者の関係を維持するためには、セクハラ対処に困難な側面があります。
しかし、セクハラを減らすことは業界全体の目標であるべきです。
出来る予防方法として、幾つかの方法が検討されています。
1つは、1対1になる環境を避けるようにします。
医療助手や筆記者などを診察室内に配置し、1対1による親密さの認識を変更します。
注意点として、患者が検査着に着替えたり脱衣する時は、医療従事者が立ち会わないようにすることが望まれます。
2つ目にセクシャルハラスメントが発生した場合、ハラスメントを受けた医療従事者、または同席している証人のいずれかが、その場で行動を起こすことです。
証人がいることは、被害を受けた本人を保護することで重要とはされていますが、大切なことは証人が行動を起こすことです。
被害を受けている際に、業務的なフレーズで行動を改めることが出来れば、対処することができ、役立つ場合があります。
次に、それでもハラスメントが止まらない場合は、加害者であることを明確にするために、「私に触れないようにしてほしい、それはセクハラです。」といった直接的なフレーズによる警告を行います。
3つ目に、患者から受けたセクハラについて話し、報告することです。
事件発生から早い時期に話したり、報告したりすることは、これらの事柄による影響を軽減し、被害者本人の羞恥心も減らし、こういったセクハラ文化の変容を促す強力な方法になり得ます。
傍観者が事件を目撃した際、被害者も目撃者がいることを認知することは、事件の検証になり、機関の責任者や管理者に報告することは、サポートと情報共有を提供するためのメカニズムになり得ます。
最後に、患者から受けたセクハラは医療記録に記録する必要があるかもしれません。
まとめ
今回の調査によれば、医療従事者の中で皮膚科の女性医師が最も被害を受けやすい可能性があることがわかりました。
さらに、セクシャルハラスメントによる燃え尽き症候群、キャリアへの不満に繋がる可能性があることから、キャリア形成や働き甲斐などの障壁として機能する可能性があります。
今回の調査でわかったことは、すべての診療科、医療機関に同様に言えるかはわかりませんが、防止策などはどこでも行えることです。
頻繁するこういった問題は、問題が起きていることを知ることから始まることだとも思います。
Notaro E, Pascoe V, Shinohara MM, DeNiro K. Sexual harassment from patient to provider. Int J Womens Dermatol. 2019;6(1):30-31. Published 2019 Sep 10. doi:10.1016/j.ijwd.2019.09.001