今回は肩の手術療法について
肩のケガには幾つかの原因がありますが、そのうちの一つに肩の腱、回旋筋腱板という組織の損傷があります。
筋肉や医療系の知識を得るために、基礎的な部分として出てくるこの組織ですが、まぁまぁな頻度で何らかしらの損傷を受けます。
五十肩かな?と思ったら、実はこの組織の部分断裂など。
臨床的にもある程度の頻度で出会うこの疾患の手術をした方がいいのか?というレビューを紹介します。
研究の内容
1007人の参加者が対象となった、9つの試験をレビューしたものとなります。
参加者の平均年齢は56~68歳で、女性の参加者は29~56%となります。
参加者は数ヶ月から数年にわたって症状があり、磁気共鳴画像法または超音波検査で回旋筋腱板の損傷と診断された人たちです。
研究はフィンランド、ノルウェー、カナダ、アメリカ、フランス、オランダ、イタリア、韓国で実施されたものとなります。
私たちの一次分析には、手術(腱の修復と肩峰の下面からの骨の除去)または非手術療法(糖質コルチコイド注射の有無にかかわらず運動)のいずれかを受けた339人の参加者による3つの試験が含まれていました。
3つの研究が資金提供を受けましたが、これらの試験に直接資金を使用したと報告した研究はありませんでした。
非手術的治療と比較して、手術療法により腱板断裂のある人々たちに利益を齎さない結果が出ています。
痛みに関して(スコアが低いほど痛みが少ない)
改善された9%(4~13%改善と)
0から10のスケールで0.9ポイント
・非手術療法を受けた人は痛みを1.6ポイントと評価しました
・外科的手術を受けた人の評価は0.7ポイントという結果です。
機能(0〜100;スコアが高いほど機能が優れている)
・0から100のスケールで6%(2~10%向上)または6ポイント改善
・非手術療法を受けた人は72ポイントを獲得
・外科的手術を受けた人は78ポイントを獲得
参加者率のグローバルな治療の成功(参加者は結果に満足しているか)
7%の人が治療を成功と評価しました(4~13%)または100人中7人という結果です。
・48/55(873/1000)
非手術的療法で治療が成功したといった人の割合
・51/54(943/1000)
手術療法で治療が成功したといった人の割合
全体的な生活の質(スコアが高いほど生活の質が高いことを意味します)
1%悪化(4%悪化から2%改善)または0から100のスケールで1.3ポイント
・非手術療法を受けた人は生活の質を58ポイントと評価しました
・外科的手術(肩峰下減圧術)を受けた人は生活の質を57ポイントと評価しました
有害事象
・運動群の試験で1つの有害事象(五十肩)が報告されました。しかし、比較リスクを見積もることはできません。
重篤な有害事象
・これらの試験では重篤な有害事象は報告されていません。レビューアの結論
非手術的治療と比較して、中程度の確実性の証拠(バイアスのリスクのために格下げされた)は、手術(肩峰下減圧を伴うまたは伴わない腱板修復)がおそらく痛みにほとんどまたはまったく利益をもたらさないことを示し、低い確実性の証拠はそれが可能性があることを示します回旋腱板断裂のある人では、機能、参加者が評価した全体的な治療の成功、または全体的な生活の質(偏見や不正確さのために低下)がほとんどまたはまったく改善されません。試験全体で報告された有害事象は1つだけであるため、いずれかの治療後に有害事象のリスクが高いかどうかを推定することはできません(非常に低い確実性の証拠)。
まとめ
結果として、外科的手術が必ずしも優れている、という確たる証拠はありません。
国が違えば結果が異なってくる、という点については懸念はありますが、回旋筋腱板損傷を患った人がこの結果を見て、治療方法を検討しても良いのかもしれません。
断裂の程度や生活の環境などにより、治療方法の選択が為されますが、外科的か非外科的かを比較しても、どちらも根気がいる治療となってきます。
医療関連に従事している人は、喜んで乱用しそうな結果でしたが、断裂の具合を確認するためにも一度専門機関に受診することはおススメしたいです。
私の臨床経験の中で、断裂と疑いがありつつも、診断項目と当てはまることが一切なかったので保存療法を続けていた人が、一向に良くならなかったのでMRIで画像診断依頼したところ、陳旧性の腱板断裂だったということもありました。
Karjalainen TV, Jain NB, Heikkinen J, Johnston RV, Page CM, Buchbinder R. Surgery for rotator cuff tears. Cochrane Database of Systematic Reviews 2019, Issue 12. Art. No.: CD013502. DOI: 10.1002/14651858.CD013502.